資産運用はしない方が良いのか?マイナスの感情との向き合い方

投資マインドを育てるコラム~やさしく学ぶ行動経済学~

行動経済学で観察される現象の一つに、「損失回避」というものがあります。簡単に言うと、利益と損失では、同じ金額でも損失のほうが大きく感じるということです。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが提唱する「プロスペクト理論」では、例えば100万円の利益の喜びを1とすると、100万円の損失の場合、同じ金額であっても悲しみは2.25倍※1になるといわれています。

※1(出典)Tversky, A. and Kahneman, D.(1992) “Advances in Prospect Theory: Cumulative Representation of Uncertainty,” Journal of Risk and Uncertainty

損に対する恐れ、損をした時の悲しみというのは、人の心をグラグラと動揺させます。この「損をする結果はできるだけ避けたい」という気持ちは、資産運用にあたっては大きな壁となります。そもそも、「投資をせず、損もしない」という選択肢と、「投資をして、利益を得られるかもしれないが、損をすることもある」という選択肢があった場合、投資から期待できるリターンやリスクについてよく考える前に、「投資をしない」方を選びたくなります。
しかし、「投資をしない」ことは必ずしも安全ではないという考え方も広まりつつあります。長い人生にわたって預貯金を取り崩していくだけで大丈夫なのかという不安と、投資から期待できるリターンとを天秤にかけて、値動きがある資産に投資をするという選択肢を選んだとしましょう。
資産の価格は上がることもあれば、下がることもあります。そのことは頭では分かっていても、元本を少しばかり上回ってくると、「今売れば損をすることはない」と、すぐ売りたくなってきます。
逆に元本を下回っていると、「売らない限りは損をした訳ではないのだから」などと考えてしまい、気づいた時にはさらに値下がりしていて、売り時を逃したりします。また、ある人は、「損をした分を取り戻さなければ」と他にリスクの高い投資に手を出してしまうかもしれません。

資産形成をする上では、損をする可能性を抑えながら、長い目で少しずつ資産を育てていくことが大事です。目先の値動きだけに関心を寄せていると、望ましい資産形成のプロセスをたどっていたはずが、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。
そこで少し発想を変えてみましょう。10年後、20年後を見通した資産形成について行動できているかを確認し、それができていることで良し、と考えるのです。食事の量を腹八分目にしたり、ウォーキングを生活の中に取り入れたりして、身体を気遣っていくのと同じイメージです。決めたことを地道に実践するのは、最初のうちは大変ですが、少しずつ変化を感じられるようになります。小さな変化を楽しみに行動を習慣化していけば、やがて大きな成果を得られるかもしれません

投資の世界には「長期投資」「分散投資」「積立投資」など、長く伝えられている基本があります。まずは基本に取り組みながら、興味を持った資産や投資方法を取り入れて、自分なりのルールを作っていきましょう。一案として、バランス型ファンドを毎月数万円ずつ積み立てる、というルールであれば、「長期」・「分散」・「積立」が自然と実践できます。マイ・ルールを実践しつつ、さらに良いものにしていくこと自体を楽しめるようになったらしめたものです。必要以上にプラスの刺激を追い求めたり、マイナスの強い刺激に振り回されたりすると、思わぬリスクを抱え込むことになります。熱い感情はちょっと脇において、クールな投資家を目指しましょう。